2015年10月26日月曜日

子どもの貧困の背景

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子どもの貧困の背景に母子家庭の低い養育費受取率
記事 本山勝寛 2015年10月24日

ひとり親家庭に支給される児童扶養手当の、2人目以降の支給額増額を求める運動が始まり、各メディアにも取り上げられている。
現状の制度では、1人目の子どもには月額最大で42,000円が支給されるのに対して、2人目には月額5,000円、3人目以降は月3,000円と相対的に低い。
一人で多くの子どもを育てるのは、時間のやりくりや心理的な大変さに加え、経済的にも窮めて困難であり、2人目以降の支給額を増額すべきというものだ。

この運動の呼びかけ人には、多数のNPO代表者や著名人が名を連ねており、私もよく知っている方々もいる。
運動の趣旨には大いに賛成で、
自分自身もひとり親で、しかも当時は児童扶養手当の対象外だった父子家庭の5人兄弟で育ち、教育費どころか食べるものにも苦労したので、
こういった支援が月3,000円でも5,000円でも増えることの「重み」を知っている。
たとえば、将来のために大学受験しようにも、問題集1冊を買ったり、受験のための交通費にも苦労するので、そういった支援が将来の可能性を少しでも開く後押しになる。

子どもの貧困を解決していくため、児童扶養手当の増額という切り口に付け加えるとしたら、
離婚による母子家庭の養育費の受取りの低さも指摘しておきたい。

児童普及手当ての受給者は
1970年代までは年間約15万人だったのに対して、
2002年には約76万人、
2012年には約108万人と急増している。
その主な要因は、離婚あるいは未婚出産による母子世帯の急増だ。
児童扶養手当受給者108万人のうち、
父子世帯が約6.4万人、
その他の世帯が3.1万人、
母子世帯が約98.6万人
と9割以上が母子世帯だが、
母子世帯のうち
離婚による生別世帯が88.9%、
未婚世帯が9.4%で、
死別世帯0.8%に対して極めて高い割合だ。
子どもの貧困率も、母子世帯の割合は半数以上にのぼる。

近年の離婚の増加が子どもの貧困を生んでしまっている、というのが現状なのだ。

(当ブログのコメント)
母子家庭の原因の離婚の原因は貧困
を参照。

http://sightfree.blogspot.jp/2012/10/1995.html
(家計の金融行動に関する世論調査:2人以上世帯調査)時系列データ(問2(a))

http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/rikon10/01.html

http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/Xlsdl.do?sinfid=000026271631
厚生労働省の毎月勤労統計調査の統計表一覧、季節調整済指数及び増減率11(実質賃金 季節調整済指数及び増減率、現金給与総額(5人以上))から(1月-3月)データを抽出


http://www.stat.go.jp/data/gousei/soku10/zuhyou/1s.xls
総務省統計局家計消費指数 結果表(平成22年基準)の、総世帯の家計消費指数のデータから、実質家計消費指数を抽出

http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa14/index.html

(貧困家庭が離婚し母子家庭になると考えられる。離婚しなかったらもっと貧困。)
http://www.jil.go.jp/press/documents/20150630.pdf

 先進国の北欧をはじめとするヨーロッパでは、大学の授業料が無料というだけでなく、大学生に生活費が支給されます。つまり、大学に行きたい人は誰でも生活が保障されて通学することができるのです。 

 それに対して、最近の日本では:
(1)安倍晋三政権は2013年から、貧困層への生活保護基準引き下げ(保護費削減)を実施。
(2)来年度(2015年)は子育て給付金中止、低所得者向けも圧縮ですって。 
(3)「無料塾」継続困難に 来年度(2015年)から国の補助減
琉球新報 9月5日(金)配信
(4)生活保護世帯の学習支援事業 2015年度から国庫補助半減

(5)生活保護のうち家賃として支払う「住宅扶助」について2015年度から引き下げ、2017年度には2014年度と比べ約190億円減額する。
(2015年度予算で食費など生活費に充てる「生活扶助」の約260億円減額も決まっている。そのため、2015年度は実質では計約320億円の減額となる。)
(6)東京都渋谷区が,年末年始の貧困者への炊き出し(食事の提供)をさせないことを目的に宮下公園など3公園を閉鎖

(7)防衛費、補正予算倍に 「経済対策」名目に拡充(2015年1月8日)
 アメリカでは、「徴兵制はいらない。貧困があるから」と言われていて、まさに国家規模の「貧困ビジネス」が戦争になっているわけです。 
(コメント終わり)

(安倍内閣には、以前(2007年)からこどもの貧困の問題が指摘されていました。その結果が以下のグラフです。)

(こどもの貧困率の逆転現象)
http://www.jec.or.jp/soudan/images/kikanshi/66-2-7.pdf
 子どもの貧困率は、世界的な経済状況よりも、国内の政策という人為的かつ意図的なものに左右される度合いの方がはるかに大きい。これを示すのが、上の図である。  上図は、先進諸国における子どもの貧困率を「再分配前」(就労や、金融資産によって得られる所得)と、それから税金と社会保険料を引き、児童手当や年金 などの社会保障給付を足した「再分配後」でみたものである。再分配前の貧困率と再分配後の貧困率の差が、政府による「貧困削減」の効果を表す。
 先進諸国においては、再分配前に比べて、再分配後には貧困率が大幅に減少している。つまり、政府の再分配政策(税制や社会保障制度など)によって、子どもの再分配前の貧困率を、大きく削減している。

 この図の衝撃的なところは、日本が、OECD 諸国の中で、唯一、再分配後の貧困率が再分配前の貧困率を上回っている国である。つまり、日本の再分配政策は、子どもの貧困率を削減するどころか、逆に、増加させてしまっているのである。 

 こどもの貧困については、安倍内閣には以前から、以下の様に、こどもの貧困の問題が指摘されてきました。

2007年2月13日、日本共産党の志位和夫委員長が、衆院予算委員会での総括質疑で、子どもの中での貧困の広がりを指摘し、「成長の可能性をはばむだけでなく、貧困が次世代に引き継がれる危険をつくりだしている。日本の未来にとって重大な問題だ」と、安倍晋三首相を問いただした。
志位氏は、経済協力開発機構(OECD)の報告書をもとに、平均的所得の半分(貧困ライン)以下の家庭で暮らす子どもの割合が、OECD諸国平均を上回る 14・3%にのぼると指摘。とくに母子家庭・ひとり親家庭では貧困ライン以下の家庭で暮らす子どもの割合が57・9%にものぼり、平均の三倍近くになるこ とを明らかにした。

 安倍首相は「貧困が再生産される日本にしてはいけない」と答弁した。

 志位氏は、子どもの貧困に向き合う政治の責任として、予算のあり方と最低賃金の問題を取り上げた。

 志位氏は「税制と社会保障で所得の再分配をおこなうことが予算の役目だ」と指摘。ところが、日本では税制と社会保障によっても子どもの貧困率が逆に1・4%高まるという逆立ちぶりを浮き彫りにしたグラフを突きつけた。

 志位氏は、所得の低い母子家庭に対して子どもが十八歳になるまで支給されている児童扶養手当の大幅削減を政府がすすめようとしていることを批判し、
生活保護を受けている母子家庭への母子加算の段階的廃止を政府がすすめようとしていることを批判し、
「母子家庭の『命綱』を二本ともたち切ろうとする冷酷な政治だ。
中止を強く求める」と要求した。

 母子加算の段階的廃止について、安倍首相は「生活保護を受給している世帯と、していない世帯との公平性をみないといけない」とのべた。志位氏は「懸命に 生きている母子家庭から母子加算を取り上げるのではなく、必死に働いても生活保護水準以下の暮らししかできない母子家庭の水準を引き上げるために心を砕く ことこそ、本当の公平性だ」と厳しく批判した。

最賃の抜本的引き上げを

 さらに志位氏は、貧困の広がりの土台に世界でも最低水準の最低賃金があるとして、「最低賃金で働いても貧困にならない社会を目標にし、最低賃金を労働者の平均的所得の五割にすることを目標に掲げるべきだ」と求めた。

 安倍首相は「中小企業を中心に事業経営が圧迫され、雇用が失われる可能性が高い」と答弁。
志位氏は「中小企業の経営を圧迫するというなら、無法な下請けいじめをやめさせることこそ必要だ。
最低賃金の抜本引き上げを中小企業の経営を応援する政治と同時並行ですすめるべきだ」とのべた。
その上で、「貧困と格差を土台からただしていくために、最低賃金を抜本的に引き上げ、全国一律の制度とすることを強く求める」と強調した。
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さらに離婚がそのまま子どもの貧困につながってしまう原因として、養育費の受取り率の低さがある。
日本では現在、離婚家庭において父親が子ども(母子世帯)に養育費を支払っている割合は19.7%(2012年)と2割にも満たない。
養育費の支払額は、父親と母親のそれぞれの収入によって変わってくるが、平均額は4.2万円だ。
養育費が支払われるか否かは、児童扶養手当を数千円増額するよりも、大きなインパクトがある。

日本では養育費受給率が2割未満だが、
たとえばアメリカでは、
離別母親の56.9%は養育費支払い命令に基づく養育費受給権を持ち、
37.5%が養育費を実際に受けているという。
(参考記事)日本の養育費受給率の低さは、他国と比べても顕著であり、子どもの貧困の要因になっているといえる。

たとえ夫婦仲が原因で離婚したとしても、子どもにとって父親は父親であり、養育される権利がある。
日本は、離婚家庭の子どもと父親との面会率もきわめて低いが、
夫婦の離婚が子どもと父親(または父子家庭における母親)をも完全に引き離してしまっている。
子どもにとっては、単にお金の問題だけでなく、たとえお父さんとお母さんが別れても、お父さんは変わらずに自分のことを気にかけて愛してくれていると感じられることが、何よりも大きな支えになる。
離婚したとしても、子どもの養育に最後まで責任を持つことが親として人として当然の義務であるという考え方に、社会全体が変わっていく必要があるのではないだろうか。
そして、養育費の受け取り率を上げていくことが、母子家庭の子どもの貧困を少しでも解決していく、一つの道筋であるように思う。

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