2015年9月19日土曜日

「良識の府」が総括質疑をスッ飛ばす異常事態

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「良識の府」が総括質疑をスッ飛ばす異常事態
安保法案を巡る終盤国会は何かがおかしい
安積 明子 ジャーナリスト  2015年09月18日

 安保関連法案の採決を巡っては9月17日の未明まで、参院は全く膠着状態だった。
何が起こるかわからないままに、何が起こってもいいように対応しておかなければならない。
前例のない事態に、議員も彼らを取材する記者も、見通しがつかないままに参院本館3階の第一理事会室前に佇んでいた。

 そして17日午前8時50分から参院平和安全保障特別委員会の理事会、午前9時から同委員会が設定されると、多少は動く様子が見えてきた。

 17日朝、鴻池祥肇委員長は理事会が開始する1時間も前に、平安特の議場となる第一委員会室に入室した。
そこから数メートル離れた第一理事会室の前には、多数の野党の議員たちが待機していた。
前日と同じく、鴻池委員長を理事会室に閉じ込め、委員会を開かせないという戦法だ。 
与党側は看板を掛けかえる奇策

 これに対して与党側は、「奇策」で応じている。
午前8時30分に参院事務局の職員が、第一理事会室に掛っていた理事会の看板を第一委員会室に掛け替えたのだ。
これで理事会は第一委員会室で開くことができ、そのまま委員会に移ることができる。

 当然のことながら、野党はこれに猛反発。
そして与野党の理事たちが鴻池委員長を囲み、大論争することになってしまったのだ。

「昨日の理事懇段階での合意事項はどうなっているんだ!」

 声を荒げるのは民主党の福山哲郎参院議員。
なんとか鴻池委員長を理事会室に戻そうと躍起になっている。
これに反論したのは公明党の荒木清寛参院議員だ。

 「いっぺん(理事会室に)入ったら出てこられない。人道上を考えてのことですよ。9時間も出られないことはありえない」

自民党の佐藤正久参院議員も福山氏を批判した。

「いちいちお伺いをたてないと、トイレにも行けない状態だったじゃないか」

福山氏も負けてはいない。

「さきほど委員長は理事会室に『戻れ』と言った。あなたが勝手に握りつぶしているじゃないか」

 理事たちの後ろには、多くの議員たちが控えていた。
その一部は腕を組み、発言こそしないものの、憤然たるその気持ちを態度で示していた。

 こうしたやりとりは、NHK放送や参院のネット中継、さらにはニコニコ動画などで全国に配信され、多くの国民が目撃することになった。
異例に異例が重なっていく委員会運営

 その騒ぎがなんとか収まり、鴻池委員長が平和安全保障特別委員会の開会を宣言したのは、予定より45分遅れた午前9時45分。
だがその直後、福山氏は鴻池委員長の机の上にいきなり不信任動議のペーパーを提出している。

 これは異例なことだが、それに対する鴻池委員長の反応もまた、異例だった。
このペーパーを読んでそのまま正式の不信任案としたばかりではない。
そもそも委員長の不信任動議が出されて審議する場合、委員長は別人を指名して交代しなくてはいけないのだが、その「宣言」をせずして、自民党の筆頭理事である佐藤氏に委員長席に座らせたのだ。

「今回の平和安全保障特別委員会は、およそあるべきではないことが多発している」

 与野党ともに関係者が口ぐちにこう述べているのは、上述のような運営上のことだけを指しているわけではない。
締めくくり総括に安倍晋三首相と岸田文雄外相、中谷元防衛相を呼び出しておきながら、いきなり質疑を省略して安保関連法案が採決されたのである。
参議院は、学識経験者を主体とした良識の府であることが期待されている。
ここで冷静な議論が行われないことは、大きな不幸と言えるだろう。

 午後1時に再開された平和安全保障特別委員会で、不信任動議を否決された鴻池委員長が委員長席に戻ろうとした時に、事態は動いた。

 いちはやくその気配を察した福山氏らは委員長席に駆け寄り、後ろにいる仲間に前に来るように呼びかけた。
自民党の議員たちも、鴻池委員長を守るべく委員長席に駆け寄った。
そして与野党の議員が激しくもみ合う中で、鴻池委員長は採決を行ったのである。
その途中で安倍首相は席を立ち、無言で委員会室から退室している。

 そして与党議員が立ちあがり、法案が成立した。
ちなみに民主党と共産党は一部の議員が乱闘に参加し、また立ったり座ったりするなどバラバラだったために、「反対」ではなく「態度表明不能」とされている。
「法案に反対」として記録されているのは維新の党だ。
同党は16日の執行役員会で「ピケやもみ合いはせず、きちんと反対の声をしていく」と決定していた。
ただし安保法制の維新の独自案については、自民党と協議したが整わなかったため、審議も採決もできなかった。
17日に開かれた同党の議院総会では、「採決するとなれば、維新案が政府案より先になるはずだったのに」と、同法案を担当した小野次郎参院議員などが悔しさをにじませたという。

不思議な怪談話も

 さて安保関連法案が無事に採決され、鴻池委員長が衛視らに囲まれて退室した後、委員会室に残ったのはあっけない空気となんともいえない後味の悪さだった。
それを示すように、実は不思議な話が残っている。

 それは法案採決の時の乱闘に、議員でもなく参院の職員でもない、身長約170センチの見知らぬ男性が参加していたというのだ。
これについて参院事務局がNHKの映像を再生してチェックしたというが、いまのところは不明。
この昼間の怪談話は、各党に広まっている。

 すでに舞台は平和安全保障特別委員会から参院本会議に移り、17日午後8時10分から中川雅治参院議院運営委員会委員長の解任決議案が審議され否決されている。
その後、延会手続きを経た後、18日午前0時10分に中谷防衛相の問責決議案を審議。午後2時10分に否決された。

 さらに参院議院運営委員会理事会は山崎正昭参院議長の不信任決議を18日午前10時からの本会議で審議することを決定したが、これは少し驚いた。
というのもかつて民主党が議長の不信任案を出そうとして、自民党から逆に副議長の不信任案の提出を示唆され、数の上で議長の不信任案は否決されるが、副議長の不信任案が可決されそうになったため、諦めたことがあるからだ。
ならば可能性が低いと言われた塩崎恭久厚労相、下村博文文科相に対する不信任案もあるかもしれない。
塩崎厚労相は改正派遣法、下村氏はオリンピックに関する新国立競技場問題やエンブレム問題に絡んでの責任追及だ。

 いまの国会は自民党が多数を占めるため、数で勝負するのはほぼ不可能。
しかし少数であっても、勢いを示すことはできる。
民主党にとっては、浮上につなげる好機だ。
実質的に通常国会最終日になる18日に、いったい何本の不信任案が提出されるのだろうか。

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