2015年8月21日金曜日

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鳥越俊太郎氏が警鐘「集団的自衛権で日本はテロ標的になる」
日刊ゲンダイ 2015年8月17日

米国との「対等関係」は一緒に戦争することではない

「アベ政治を許さない」──。
安保法案反対の抗議運動で有名になったこのポスター。
全国一斉に掲げようと作家の澤地久枝さんと一緒に呼びかけたのがこの人、ジャーナリストの鳥越俊太郎氏だ。
抗議行動は拡大し、今も全国各地でポスターが掲げられている。
新聞記者、テレビキャスターとして長い間、戦地を取材、報道してきたジャーナリストに今の安倍政権はどう映っているのか。
安保法案が成立した場合の本当の恐ろしさはどこにあるのかを聞いた。

――あのポスターはインパクトがありました。怒りの行動の原点は何ですか。

 何といっても昨夏、集団的自衛権の行使容認を閣議決定したことです。
政府や内閣法制局だけでなく、歴代の自民党政権も憲法9条がある以上、集団的自衛権は行使できないと言ってきた。
それなのに突然、国会に諮ることなく、国民に意見を聞くこともなく、わずか十数人の大臣だけで行使できると決めてしまった。
憲法9条の精神を根本から変えてしまったのです。
自民党が集団的自衛権の行使容認について選挙で政策に掲げて支持を訴え、有権者が自民党に投票した、というならば、一応は民意を問うたことになるが、昨年末の衆院選でも、その前の参院選でも自民党はほとんど言ってなかったに等しい。
これは手続き上も民主主義的じゃない。
独裁政権のやり方です。

――安倍政権がそこまでして安保法案を成立させたい理由は何だと思いますか。

 安倍首相はアメリカと対等関係をつくり、歴史に名を残したいのではないか。
もっとも、アメリカとの対等関係を本気で目指すなら、やるべきことは日本国内の米軍基地をすべて撤収させたり、思いやり予算をなくしたりすることです。
しかし、安倍首相はそこには全く手を付けず、自衛隊が米軍とともに世界中で軍事行動することが対等関係と思っている。
アメリカの議会で演説し、拍手喝采を浴びて安保法案の成立を約束し、対等関係に近づいた、といい気分に浸っている。
美しい国とか戦後レジームからの脱却とか、いろいろ言っているが、結局は英国やスペインなどと同じように、アメリカが戦争する時に有志連合に加わりたいだけなのです。

――仮に「安保法案」が成立し、アメリカと一緒に世界中で戦うことになると、日本はどんな事態に巻き込まれるのでしょうか。

 その前にまず、世界で何が起きているのかということを理解する必要があります。
2001年9月にニューヨークの貿易センタービルにハイジャック機が突っ込むテロ事件が起き、
アメリカは国連で「イラクは核と大量破壊兵器を持っている」と断言し、
さらに「放っておくとアルカイダ(テロリスト)に核が流れる」との大義名分を掲げてイラク戦争を仕掛けました。
ところが大義名分はウソだった。
不正義の戦争を仕掛けたわけです。
サダム・フセイン元大統領は捕まり、裁判で死刑になった。
どう見てもアメリカによる侵略戦争ですが、その後、どうなったのかといえばイスラム教原理主義者の過激派(テロリスト)による報復テロの連鎖です。
04年のマドリードの列車爆破テロで191人が亡くなったほか、05年7月にはロンドンで、列車やバスの同時多発テロが起きて56人が亡くなりました。
IS(イスラム国)だって、アメリカがイラク戦争で追い払った旧フセイン政権の役人や軍人が中心です。
つまり今、世界中で起きているテロはアメリカがつくり出したようなもの。
アメリカとテロリストが戦うという構図なのです。

予想以上に拡大した「アベ政治を許さない」

――長引くテロ戦争の原因はアメリカにあるということですね。

 しかし、戦うといっても、アメリカは軍隊だが、テロリストの姿は見えない。
東西冷戦下のような「軍隊対軍隊」の対称型ではなく、非対称の戦争です。
仮に自衛隊が米軍の兵站で中東地域に行くような事態になれば、テロリストたちは「日本はアメリカの手先となって一緒に戦う敵」との認識を持つでしょう。
理屈の上では、マドリードやロンドンで起きたようなテロ攻撃を、東京で仕掛ける可能性がないとは言い切れないのです。

――テロ事件が日本でいつ起きてもおかしくないと。

 僕がテロリストなら、日本で最も効果的なテロは、新幹線爆破ですよ。
新幹線はセキュリティー対策がほとんど取られていないのも同然です。
事実、先日も乗客がガソリンを持ち込み、焼身自殺したばかりだが、ああいうことができる。
例えば爆弾を1~2個、カバンに入れて東京駅から乗り、列車内で爆弾をセットして新横浜駅あたりで降り、静岡駅あたりで爆発させる。
脱線、転覆で1000人以上の犠牲者が出る大惨劇になります。
あくまで可能性の話ですが、そういう議論が国会で全く出てきません。
テロリストというと、ちっぽけなゴロツキのようなイメージを持つだろうが、彼らの多くは優秀で、それなりに組織化されて力もある。
自爆テロの要員も養成しています。
日本でテロを実行しない保証はどこにもありません。
日本が集団的自衛権を行使した途端、これまで考えられなかったような危機的状況に陥るかもしれないということに、政治家も日本人も誰も気づいていない。
自衛隊のリスクについて国会で議論されているが、それよりも、日本がテロのターゲットになるのが一番怖いのです。

――確かにテロについて、国会でもほとんど議論されていません。

 僕は91年にシベリアのICBM(大陸間弾道ミサイル)の基地を取材しました。
ミサイルの照準はアメリカに向けられていたのですが、射程5000キロの中距離ミサイルの照準を聞くと、基地の将校は壁に貼ってあった地図を指さしました。
どこだろうと思ったら、何と沖縄だった。
何十年もの間、ソ連の核ミサイルは沖縄に照準を合わせていたのです。
集団的自衛権を行使し、米軍と一緒に行動すれば同じことが起きます。
テロの標的になるのです。

――しかし、安倍政権は日米同盟の強化が必要、と繰り返しています。

 米軍と関わるとロクなことがないのです。
日本の平和が米軍に保障されているなんてとんでもない。
米軍がいるから危ない。
米軍と一緒に行動するから狙われる。
世界で戦争を仕掛けている国はアメリカだけです。
イラク戦争だけじゃなく、ベトナム戦争も、アフガン戦争もそう。
当然、報復テロが起きる。
それなのに日本は米軍とより仲良くする、と言っているのです。

――そんな安倍政権を批判しないメディアにも問題がありますね。

 メディアというのは、納税者に代わって政府の税金の使い方をチェックする、ウオッチドッグです。
しかし、一部の大手メディアは政権チェックを全くしないし、それどころか、政権の広報担当となっている。
戦時中のメディアは大本営の広報機関になり、その反省から戦後のメディアは出発したはずです。
しかし、今はメディアが政権をチェックするのではなく、逆に政権側がメディアをチェックし、注文をつけてくる。
そんな逆さまの現象が起きています。

――それでも、安保法案の反対運動は広がるばかりです。

 最大30万人が国会を取り囲んだ60年安保とは規模は違いますが、中身がまるで違う。
参加者は一般の市民や主婦、組織されていない学生など、いわゆる草の根的な運動で、一斉に声を上げている。
組織がまったくないかといえばそうではない。
九条の会はあるし、「戦争をさせない1000人委員会」もある。
そういう市民の会が全国各地にできているのです。
かつての「ベ平連」(ベトナムに平和を!市民連合)みたいにね。
澤地さんが呼びかけた「アベ政治を許さない」の抗議運動は、予想をはるかに超えて各地で起きた。
この動きが来夏の参院選まで続けば、恐らく前の参院選とは状況が変わるでしょう。

▽とりごえ・しゅんたろう
 1940年、福岡県生まれ。京大文学部卒業後、毎日新聞社入社。大阪、東京社会部、外信部(テヘラン特派員)を経て、サンデー毎日編集長。民放番組のキャスターも務めた。01年、桶川女子大生ストーカー殺人事件報道で「日本記者クラブ賞」受賞。

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