2015年8月20日木曜日

Copy:「集団的自衛権は想定外」 政権が依拠する「72年政府見解」作成の元法制局長官が激白

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「集団的自衛権は想定外」 政権が依拠する「72年政府見解」作成の元法制局長官が激白
週刊朝日 2015年8月28日号

 安保関連法案の致命的なほころびが、また一つ明らかになった。

 安倍政権が集団的自衛権行使容認のよりどころとする、内閣法制局作成の「1972年政府見解」(以下、「見解」)。作成に携わった幹部でただ一人存命の角田(つのだ)礼次郎・元内閣法制局長官が、本誌の直撃に長い沈黙を破った。

 当時、田中角栄政権で憲法解釈を担当する法制局第一部長として「見解」の作成に関わり、その後は最高裁判事などを歴任した角田氏。「見解」について、こう明言した。

「集団的自衛権をいささかでも認めるなどという考え方は、当時は全然なかった。与党、野党、内閣法制局を含めてね」

 8月13日、都内の自宅で取材に応じた角田氏。転んで痛めたという左腕のギプスが痛々しかったが、口調は明快だった。「40年以上前のことだから」とこれまで取材を断ってきたというが、自身の印鑑も押された手書きの「見解」の写しを見せると、ポツポツと胸の内を語り始めた。

「重大な案件なら、法制局内でも、総理や官房長官との間でも議論になるし、さすがに覚えているはずだが、記憶にない。当時はあまり問題にならなかったんでしょう。集団的自衛権が何らかの形で認められるなんてどう考えてもなかったし、そういう主張をした人もいなかった」

 記憶にないのも無理はない。「見解」は、集団的自衛権の行使はできないという従来の憲法解釈を述べたものにすぎず、目新しいものではなかったからだ。

 ところが昨年、42年ぶりに「見解」を〝発掘〟した安倍政権は、ここに集団的自衛権の行使を限定容認する考え方が含まれているという、真逆の主張をし始めた。元総務官僚で、国会でこの問題を追及してきた民主党の小西洋之参院議員が解説する。

「『見解』には『外国の武力攻撃によって国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底からくつがえされる』場合に自衛のための措置が容認されると書かれている。
『外国の武力攻撃』が日本へのものと明言されていないことに目をつけた安倍政権は、同盟国などへの攻撃も日本の自衛の措置の対象に含まれる場合があると主張しているのです」

 こうした安倍政権の理屈を説明すると、角田氏は苦笑してこう切り捨てた。

「横畠(裕介・現法制局長官)君がそう言っているの!?
 そういう分析をした記憶はないし、そういう理解はなかったと思いますね。
ここに書かれている『外国の武力攻撃』は、日本そのものへの攻撃のことです。
日本が侵略されていないときにどうなる、なんて議論は当時なかった。
これを根拠に解釈改憲なんて夢にも思っていなかった。いやあ、よく掘り出したものだね」

 角田氏の話を裏付ける別の証拠もある。

 そもそも72年10月7日に「見解」が作成されたのは、同年9月14日の参院決算委での社会党議員の集団的自衛権についての質問がきっかけ。
そこでは、角田氏の上司で「見解」作成の最高責任者だった吉国一郎法制局長官(2011年に死去)が、こう答弁しているのだ。

<他国が──日本とは別なほかの国が侵略されているということは、まだわが国民が、わが国民のその幸福追求の権利なり生命なり自由なりが侵されている状態ではないということで、まだ日本が自衛の措置をとる段階ではない。
日本が侵略をされて、侵略行為が発生して、そこで初めてその自衛の措置が発動するのだ>
(議事録から)

 他国ではなく日本そのものが攻撃されない限り自衛の措置をとれないと、ハッキリ言っている。
吉国長官は、こんな強い言葉も使っていた。

<わが国は憲法第九条の戦争放棄の規定によって、他国の防衛までをやるということは、どうしても憲法九条をいかに読んでも読み切れない>
(同)

 これらの答弁をまとめたものこそが、「見解」なのだ。

 前出の小西議員は8月3日の参院特別委で吉国氏の答弁について横畠法制局長官を問い詰めたが、
横畠氏は「72年当時の事実認識が、近時の安全保障環境の変化によって変わった」などと繰り返すばかりだった。
小西議員がこう憤る。

「横畠氏は集団的自衛権の行使を認める論理は『見解』を作った担当者の頭の中にあったと答弁していましたが、
吉国長官の答弁に加えて、角田氏本人の証言で、まったくのインチキが露呈してしまった。
まさに法的安定性の否定そのものです。
官僚たちとこの議論をすると、みんな青ざめて口ごもる。
法案が違憲だとわかっているんです。
安保法制は、安倍政権による事実上のクーデターにほかならない」

 日本はいつから、こんなに“危ない”国になってしまったのか。

※週刊朝日 2015年8月28日号

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