2014年9月5日金曜日

長野県の青少年条例制定の提言に対する意見

(ブログ目次はここをクリック)

このたび2014年8月29日に、長野県青少年育成県民会議が、
県民会議・県民運動見直し検討報告書を会長(知事)に提出しました。
 (検討チームは、県民会議の役員有志9人が4月から5回、非公開で開いた。)
 その報告書で、
http://www7.ocn.ne.jp/~nagano/report.pdf
青少年条例の制定を提言しています。

 しかし、その報告書の長野県の青少年の現状分析について異論がありますので、以下で私の現状分析と意見を述べます。


長野県警察のサイトによると、 
http://www.pref.nagano.lg.jp/police/toukei/hodou/07.html

 上のグラフのように、県としては青少年条例を持たない(長野市は2002年に青少年条例を制定したが)長野県でも、2008年に携帯フィルタリングを開始したら、2009年に、13歳以下少年の犯罪が増えました。

 携帯フィルタリングによる抑圧が青少年の犯罪を誘発していると考えられます。

 その後の2010年に長野県は、その犯罪を減らすことに成功し、2012年に、携帯フィルタリング開始以前のレベルまで下がりました。

http://www.pref.nagano.lg.jp/police/toukei/hanzai-tokuchou/02.html#p2-2

これらのデータは、以下の各年度毎の警察庁の資料から 
(3 年次別 府県別 罪種別 認知・検挙件数及び検挙人員)
のファイルの中から、先ず罪種を選んで、次に長野県のデータを抽出することができます。(少年の検挙人数もわかります)全ての刑法犯罪のデータがありますので便利なデーターベースです。


 長野県の強姦認知件数は、2011年に一時増加しました。

 2011年の長野県での強姦認知件数の増加は、恐らく2008年からの携帯フィルタリングによる青少年抑圧の結果(その時期に育った青少年が数年後に強姦犯罪を犯した)だろうと考えます。
 長野県の2013年の強姦件数は、2012年に比べて6件/11件で、46%減少しました
 京都府で2013年に、未成年の強姦検挙人数が2012年の8倍に増えている
http://www.pref.kyoto.jp/fukei/anzen/shonen_s/hikou/documents/keiho25.pdf
 http://sightfree.blogspot.jp/2011/09/blog-post_16.html
のに比べると、長野県の治安はとても良いと考えます。


(データのソース:(1)県民会議報告 (2)青少年ながの
http://www7.ocn.ne.jp/~nagano/11kikanshi/SN00094.pdf

このように性犯罪が減少したのは、セイフネット講座の働きによるところが大きいと考えます。しかし、「県民運動の成果は見えにくくなっている」と自己評価しているようです。

そして、愚かな2002年(長野県の強姦犯罪を増した)に戻って、青少年健全育成を県条例で強化しようと提案しているようです。

http://www.pref.nagano.lg.jp/police/toukei/hanzai-tokuchou/02.html#p2-2

http://www.pref.nagano.lg.jp/police/toukei/hodou/10.html#p10-1

http://www3.pref.nagano.lg.jp/toukei1/jinkou/nenrei/nenrei.htm
http://www.pref.nagano.lg.jp/police/toukei/hodou/10.html#p10-1
http://www.pref.nagano.lg.jp/police/toukei/hodou/12.html

(児童買春・児童ポルノ犯人の検挙人数は読売新聞の記事とは人数が大きく違います)

 読売り新聞の記事の数値は、長野県の専門委員会の報告のデータによります。
 長野県の「青少年ながの」の報告で、『子どもの性被害等に係る検挙人員数』の定義を以下のデータにしています。

すなわち、福祉犯(少年の福祉を害する犯罪)のうち、

子どもの性被害に関係する犯罪
(①児童回春・児童ポルノ禁止法、
②風営適正化法、
③児童福祉法、
④出会い系サイト規制法、
⑤売春防止法)
を集計しています。


http://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_soc_tyosa-jikenchildren-porno

 長野県は、2012年には13歳以下少年の刑法犯を大幅に低下させることに成功して います。この結果から考えると、長野県では有効な青少年非行対策が行われていて、その有効性が2012と2013年の13歳以下少年の刑法犯の劇的な減少 という良い結果で証明されていると考えます。

 長野県の青少年健全育成についての報告書の、県民アンケートでは、県民の体感治安「青少年の性犯罪被害」の悪化が報告されています。その体感治安の悪化の根拠は、強制わいせつ認知件数が2012年まで増加してきたことが理由と考えます。

少年の強制わいせつ被害者は2012に一時増加したのみに留まります。

  「青少年の性犯罪被害」とは、児童ポルノの検挙数の増加のことを言っているようです。しかし、その「被害者」の半数は自画撮り児童のようです。
 児童買春・児童ポルノ禁止法の犯罪数のデータは、年毎に犯罪を定義する範囲を拡張しています。また、この犯罪に対する警察の捜査力が毎年向上しています。そのため、児童買春・児童ポルノ禁止法の犯罪数の推移のデータは犯罪の実態の推移をあらわす指標としては不適切なデータです。

 青少年の性犯罪被害の実態を正しく評価するには、単にやみくもにデータを集計すれば良いというわけではなく、実態を正しく反映する可能性の高いデータを選んで判断の指標にするべきです。

(私は、強姦犯罪の認知件数を、性被害の実態を比較的良く反映している、信用できる指標と考えています。)

 青少年の犯罪を増す原因は抑圧です。携帯フィルタリングによる抑圧は青少年の犯罪を増します。

 青少年健全育成条例で更に青少年を抑圧すると、東京都のように犯罪が増えます。

 これに対して、青少年健全育成条例を県としては持たない長野県は、「親子で学ぶセイフネット講座」による教育という手段で対応してきました。この講座は、長野県の強姦犯罪を劇的に減少させました。また、「親子で学ぶセイフネット講座」を倍増させた2013年には、強制わいせつ犯罪も減少させることに成功しました。

 それに比較し東京都では、性犯罪が急増しています。
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/toukei/bunsyo/toukei25/data/kt25_d098.xls

 長野県が東京都のように道を誤ることが無いように、先ずは、青少年の性被害をあらわす指標を正しくすることが必要です。次に、何が犯罪を増す犯人であるかの冷静な分析が必要と考えます。

 長野県が「親子で学ぶセイフネット講座」によって強姦犯罪を劇的に減らしたことは、性犯罪を軽微化した大きな成果と考えます。単純に考えると、大きな成果があったので、この県民運動のための予算を増すことが良いと考えます。

 しかし、現在得ている成果は、判断指標が誤っているので、とても危うい状況にあると考えます。判断指標が正されない限り、今の成果は「偶然うまくいっている」レベルと考えます。先ずは、判断指標を正すことが最優先で必要とされていると考えます。

 また、「親子で学ぶセイフネット講座」を生みだした県民会議が、それが予算を大きく消費するようになってきたからと言って、県民会議から切り離して行政に任せたいと考えているようです。

 それに対して、私の考えは、

  「親子で学ぶセイフネット講座」を生みだしたので、県民会議を(その活動には間違いが多いように考えますが)尊敬していました。
 「親子で学ぶセイフネット講座」が行政に任せられると、「親子で学ぶセイフネット講座」の力が失われると考えます。 「親子で学ぶセイフネット講座」は、青少年携帯フィルタリングの宣伝をしているだけで、その青少年携帯フィルタリングは青少年を抑圧し非行化させる原因になると考えます。
思春期の性の乱れの原因はインターネットでは無いことも良く知っておくべきと思います。) 
http://sightfree.blogspot.jp/2011/10/blog-post_10.html

 「親子で学ぶセイフネット講座」が今まで成果を出していたのは、運動の行動を合理的な方向に修正する民主主義に支えられていていたという偶然によると考えます。
 「親子で学ぶセイフネット講座」が、合理的行動を選ぶ民主主義から切り離されて、行政に任せられると、それは、青少年を非行に走らせる抑圧の道具にしかならなくなると考えます。
http://sightfree.blogspot.jp/2010/10/blog-post_31.html
次の2014年は、1月から6月の13歳以下少年の強制わいせつ犯補導人数は、2013年の同期間に比べて、92人/82人で、12%増加しています。

淫行処罰条例の制定に反対する意見書の提出について
 (長野県弁護士会 2013年12月14日)
 長野県は,平成25年5月31日に「子どもを性被害等から守る専門委員会」(以下,「専門委員会」という。)を設置し,淫行処罰規定を盛り込んだ条例(以下,「淫行処罰条例」という。)の制定を含め,子どもを性被害から守る施策を検討しています。

 当会は,平成25年7月16日淫行処罰条例の制定に反対する会長声明を発しましたが,専門委員会内に設置された法規制検討ワーキンググループ(以下,「法 規制WG」という)が,淫行処罰条例の制定の必要性を前提に,上記会長声明に対し項目ごとに子細な反論を加えた「WG見解」を示すなど(第3回専門委員会 資料2-2「検討項目に関する指摘について」),専門委員会において,淫行処罰条例の制定ありきの議論がなされているように見受けられました。


 このような現状を踏まえ,当会は,平成25年12月14日,「子どもを性被害等から守る専門委員会」に対して「淫行処罰条例の制定に反対する意見書」を提出しました。

意見の趣旨は以下のとおりです。

1 県は,子どもを性被害から守るための施策として,淫行処罰条例を制定するべきでない。
2 専門委員会は,

①子どもを性被害から守るための予防施策として,子どもの主体性を前提とした子どもに対する教育及び大人に対する啓発教育の推進,
並びに
②事後的救済のための施策として,被害を受けた子どもに対するケアを,重点的に検討すべきである。

意見の理由の総論は以下のとおりです。

(1)まず,本意見書にいう淫行処罰規定とは,東御市健全育成条例に定めるような広く青少年とのみだらな性行為又はわいせつな行為を禁止する規定(以下, 「非限定的な淫行処罰規定」という。)のみならず,大阪府,山口県,千葉県等の青少年健全育成条例に定めるような威迫,欺罔,困惑等の手段に限定した規定 (以下,「限定的な淫行処罰規定」という。)を含むものをいう。


(2)我が国においては,都道府県では1950年に岡山県で初めて有害図書規制条例が制定された後,現在に至るまで長野県を除く全ての都道府県が淫行処罰 条例を制定している状況にある。そして,市町村で同様の条例を制定している自治体もあり,長野県では,東御市が有害図書と淫行の規制を内容とする「青少年 健全育成条例」を制定し,長野市,佐久市,塩尻市などが有害図書を規制する条例を制定している。


 長野県がこれまで淫行処罰条例を制定しなかった主な理由は,教育を単に行政に任せるのではなく,地域全体で支えていこうという県民意識が根付いていることが挙げられる。

条例による規制ではなく,県民運動の展開,業界の自主規制,行政の啓発の3つを柱とした県民総ぐるみの運動により取り組んできたといえる。
また,長野県の公式見解によれば,青少年に有害な環境を条例により規制するという方法よりも,「青少年は地域社会から育む」という観点に立って,県民一人ひとりが自分自身の問題として受け止め,家庭,学校,地域,関係団体及び行政が一体となった運動を展開していくことが,青少年の健全育成にとってより効果が上がる適切な方法であるとされている

(2005年「信州・フレッシュ目安箱」参照)。

(当ブログの感想:
 長野県の県民会議の考えを読むと、その青少年健全育成の考え方には間違いが多いように見えるにもかかわらず、
県民会議の活動が、青少年の性被害(強姦件数)の劇的減少という大きい成果を上げています
その成功の秘訣は、長野県の県民が、行政や条例に任せきりにしない、民主主義体制があることが、この成功をもたらしているのではないかと考えます。

 長野県の県民運動では、青少年の性被害を図る指標が間違っていると考えます。指標が間違っている(心の目が暗い)ので、県民運動の成果が見えないでいます。
 運動の成果を判定する指標が間違っているにもかかわらず、成果を上げることができた理由を以下のように仮定します。
「青少年の育成に良い運動を、多くの意見を取り込んで、その中から合理的な意見を選択することができたのではないかと仮定します。 」
 これが民主主義の力の秘密の1つと仮定します。
 長野県が体質的に、この民主主義の力を持っているならば、運動の成果を判定する指標の誤りも、多数の意見を取り込んで正すことができるのではないかとも考えます。
 青少年条例を制定したいというのも、多数の意見のうちの1つと考えます。
 民主主義の力の秘密の1つの、
多くの意見を受け入れ、その中から合理的な意見を選択する
行動を、長野県民の働きの中に見ることができるかもしれない。
 「青少年条例制定」を希望する意見を長野県がどのように処理し、どのように良いものを選択できるのか、今後の動きを見てみたい。
 長野県の市民の働きの中に民主主義のモデルの働きを見ることができるなら、とても興味深いと思います。
 ただし、現在の長野県の県民ホットラインの質疑を見ると、長野県は現在は、行政側が県民運動を上から指導する立場に立って働いていて、県民の合理的意見に対して、間違った指標に基づく間違った結論を回答するのみで、県民の合理的な意見を吸収するべき民主主義の対応はできていないように見えます。
 長野県の県民運動等の民主主義体制は壊されてきているように思えます。
 この事例を見た感想から、民主主義の力の源泉の重要なポイントの1つは、「正しい判断指標(明るい心の目)を得ることに大きな関心を抱き、正しい判断指標を得るための大きな努力をすること」であると仮定します。
 長野県は、このポイントが弱いために、今後は民主主義が壊れ、民主主義の力の利益が受けられなくなると予測します。)

(3)当会は,上記のとおり長野県が淫行処罰条例を必要としなかった県民意識や県民の取り組みは今でも根付いており,今後も変わらないと考える。

 また,後に述べるとおり,現状において淫行処罰条例を設ける十分な立法事実(県内に淫行処罰規定を設ける社会的な必要性)がないばかりか,
淫行処罰規定には,刑罰 法規の明確性の原則
(不明確な処罰規定は国民の行動を不必要に委縮させるため,違法であるとの原則)
や刑罰法規の謙抑性の原則
(可能な限り国民の行動を制限する刑罰法規に頼るべきではないとの原則)
に反する等の問題がある。
 
 したがって,安易に淫行処罰条例によって子どもを性被害から守ろうとするのではなく,

これまで進めてきた県民の取り組みを後押しする施策を充実化させるべきである。

(4)また,淫行処罰条例の制定は,本質的に子どもの性的自己決定権の尊重と相容れず,子どもに対する教育や大人に対する啓発教育の推進等と両立しないことも指摘せざるを得ない。
むしろ,日常的な子どもや大人に対する教育を充実させ,万一,子どもが性被害に遭った際には,既存の刑罰法規によって犯罪者の摘発をするとともに,被害児童のケアに対する施策を充実させるべきである。
 

(5)現在,専門委員会で行われている議論は,一部が非公開であり,議論の前提が淫行処罰条例の制定ありきであるかのように見受けられ,必ずしも広く県民の意見を聴き,県民全体の十分な議論を経ているとは言えない。

 後述するとおり,子どもの施策に対する県民意識は高く,これまでの家庭,学校,地域等の県民の取り組みを踏まえて県民全体での十分な議論を巻き起こしていくべきである。

意見の理由の各論の要約は以下のとおりです。

1 新たに淫行処罰条例を設けるべきでないこと
(1)立法事実が十分でない
ア 刑罰法規に係る立法事実の検討は,特に厳格かつ慎重になされるべきである。
イ 現行法規で広く多角的な規制がなされている。
 すなわち、児童に対し事実上の影響を及ぼして児童に性交等をさせることは児童福祉法違反(60条1項,34条1項6号)であり,児童等に対償を供与し,又は約束をして性交等をすることは児童買春・児童ポルノ禁止法違反である(4条,2条2項)。
 その他,刑法,出会い系サイト規制法,風営適正化法,売春防止法,ストーカー規制法,軽犯罪法,長野県迷惑防止条例等によって,子どもに対する性犯罪は広く多角的に規制されている。
 

ウ 県内における性被害の発生状況からも,立法事実は不十分である。
・県内の児童買春案件は増加していない。
・県内の子ども性被害の検挙人員の増加は,淫行処罰規定の規制対象とは無関係の行為の増加によるものである。
・全国における検挙数965人は,現行規定で適用できるものも含まれている。
・隣接県における検挙数も,同様である。
・教職員による性犯罪事案は,児童福祉法などにより規範が与えられ,懲戒処分,マスコミ報道等の社会的制裁を受ける。刑罰法規とは別の方策が必要である。
 

・インターネット利用の犯罪については,情報教育が重要である。インターネットの特質と正しい使い方を理解しないままに使っていることが危険なのである。直接接触する場面の性行為そのものを規制するしかないというのは飛躍した発想である。
・東御市青少年健全育成条例違反の事案は,児童福祉法違反の適用の可能性がある。


エ 県民の多くが淫行処罰条例の制定を望んでいない    

(2)淫行処罰規定自体に重大な問題がある
ア 構成要件の明確性に反する
・単に「淫行又はわいせつな行為」を禁ずる非限定的な淫行処罰規定は,一般人からみて限定解釈は読みとれない。捜査機関は恋愛や人格的交流の有無を判断で きず,真摯な恋愛に踏みこむおそれがある。濫用防止条項,運用規定があっても不明確な刑罰法規が存在すること自体が憲法違反である。
・対象行為を「専ら性的欲望を満足させる目的で、青少年を威迫し、欺き、又は困惑させて青少年に対し性行為等を行うこと」等に限定する淫行処罰規定(大阪 府青少年健全育成条例等)についても,要件該当性の判断を明確かつ客観的に行いえない。男女関係のプロセスにおける言動には,客観的に誘惑・威迫・欺罔・ 困惑と明確に区別できない言動が伴う。性被害の結果を構成要件化することは極めて困難である。
 

イ 子どもの性的自己決定権の尊重の理念と相容れない
 ・一般人からみて限定解釈が読み取れない以上,淫行処罰規定は青少年の性的行為全般の禁止であり,子どもが性的事項を主体的に判断,決定することを否定 するものである。子どもの一般的な恋愛を萎縮させるとともに,真摯な恋愛であった場合,子どもはなぜ恋愛相手が処罰されるのかを全く理解できず,精神的に 傷付くことも予想される。


ウ 子どもに対する性教育及び大人に対する啓発教育の推進と両立しない
・子どもが性的事項を主体的に判断,決定することを否定するものであり,根本的に子どもや大人に対する性教育の推進と相容れない。

(3)刑罰法規の謙抑性に反する
・刑罰は最後の手段であり,淫行処罰規定を設けるためにはそれがどうしても必要との立法事実が不可欠である。刑罰による新たな規範形成の必要性がなくては ならず,被害発見のため,県民運動の促進のためでは理由にならない。淫行処罰規定は不明確,広範な規制であり,刑罰法規の断片性に反する。教職員の問題, インターネットの問題については,淫行処罰規定以外の代替手段があるから,刑罰の補充性にも反する。

(4)刑罰法規を過大評価すべきでない
・重い刑罰を課しても規範に反して罪を犯す者がいる。一般予防機能に過度な期待はできない。淫行処罰規定の一般予防効果も明らかではない。
・刑罰の特別予防機能としても,全て検挙,起訴,処罰されるものではないとの限界がある。県内の教職員による犯罪の事案は特別予防機能の限界の問題である。児童性愛者等に対する効果も疑問がある。

(5)現行規定の適用がない事案は,刑罰で規制すべきでない
・刑罰法規の謙抑性や罪刑法定主義,構成要件の明確性という基本原理からして重大な疑義がある。
・子どもの健全な性的な成長発達のためには,大人から威迫,欺罔,困惑があっても,あるいは,性的欲望を満足させるために近づいてくる大人がいたとしても,子どもが性的自己決定を主体的にできるような教育や支援を第一に優先すべきである。
・大人を仮に処罰したとしても,性被害を受けた子どものケアにはならない。
・教職員の場合は,懲戒処分により,教育現場から排除される。教職員と児童生徒という関係を超えて,性的関係という極めて私事に関する事項に対して倫理的道徳的な評価を構成要件にもちこむことは相当でない。
・淫行を広く処罰するような淫行処罰条例は刑罰の謙抑性や明確性から看過しがたい問題があり,他方,淫行を客観的かつ具体的に限定するような淫行処罰規定では実効性が伴わない。


2 子どもを性被害から守るために必要な施策
(1)子どもに対する教育
・子ども自身に性について正しい知識と判断力を身につけさせることが重要である。性教育の充実やCAP教育といった子どもの主体性を認め,自己肯定感を向上させるための取り組みが求められる。

(2)大人に対する教育
・子どもを性被害から守ろう,子どもの性を大事にしようという啓発教育が必要である。子どもの性の実情や子どもを取り巻く状況についての正しい情報を提供 し,子どもの性被害やその影響について周知し,子どもへの具体的な対応やサポートの方法を研修することが重要である。SNSやインターネットに関する情報 教育も必要である。
・県民運動も効果的である。淫行処罰条例の代替として県民運動が展開されたという側面がある。

(3)被害を受けた子どもに対するケア
・子どもが信頼できるような相談窓口の設置,子どもに寄り添ってケアができる専門医の医師や臨床心理士の配置,二次被害を防ぐための司法面接の手法の導入が必要である。

3 立法過程における議論のあり方
・法規制WGの在り方など,はじめから法規制ありきともいえる立法手続は極めて問題である。専門委員会は広く県民の意見を聴き,県民全体で開かれた十分な議論をすべきである。

以 上
PDFファイルはこちら

参考:長野の子ども白書:
「淫行条例制定」 (青少年健全育成条例の理念)について(2014年9月11日)
「青少年健全育成条例」をどう考えるか(2012年4月26日)
(奈良県の2つの条例の問題点)
http://sightfree.blogspot.jp/2011/05/blog-post_05.html
 奈良県では2013年7月の青少年健全育成条例で青少年の携帯フィルタリングを義務化しました
 すると、奈良県の強制わいせつ犯罪認知件数は:

http://sightfree.blogspot.jp/2011/05/blog-post_05.html

・2013年は2012年に比べて、52件/30件に達し、73%増加しました。
・2014年の1月から8月も、2013年に比べ、55件/25件に2.2倍に増えています。
 奈良県で、13以下少年の、強制わいせつ犯を含む風俗犯は、2013年は2012年に比べ、9人/1人で、9倍に増加しています。


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